野を越え、山を越えて名古屋への道(4)

 

 帰らないで、ひのきしんが始まったわけでございます。けれど、たくさんお金を持ってきているわけではございませんから、朝は水を飲んで食べたふりして、お昼も水飲んで食べたふりして、まあ恥ずかしいお話ですが、3時におやつが出ましょう。それでちょっとお腹が膨らむ。夜だけ頂戴して、三ヶ月間毎日、夜警を勤めさせていただいた。

 

それじゃあ、母のひのきしんは、どんなひのきしんをしてくれたかというと、当時、ご婦人さん方のひのきしんというとね、ひのきしん場で落ちた古釘を集めて(使った、外した、折れたような古釘を集めてきて)、それを鉄の板の上で、カネの槌でこうやってトントントントン叩いて、伸ばして、再生してまた普請にお使いになるという時代なの。そんなひのきしんがだいたいご婦人のひのきしんと決まっていた。

けれども母はね、朝、会長様のお話が終わるともう飛んで出て、2台大八車がございました。それをこうやって持って、どっちが軽いかなあ、ああこっちの方が持ちいいなあと言って、それでもう前棒を持っちゃうの。そして、縄で後ろから担いで、そして当時3往復でしたねえ。どこへ行っているかというと、中川区の池田さんっていうお宅が、左官の材料を売っていた。そこまでお教会から3往復、2台の大八車で毎日させていただいた。

 

そりゃあもう時折ねえ、会長室のこの部屋から、ひのきしんのところが見えるんですね、ひのきしん場が。何気なくこうやって、お母さん、どこでひのきしんしているのかなあというと、もう本当にねえ、まあなんていうのか、おそろしいようなね、もう寄りつけないような感じがしましたねえ。一生懸命という姿ですねえ。

 

まあこうして、ひと月経ったときに、鳥倉先生のお父さんがみえて、「遠藤さん、あんたの喜ぶことを持ってきたよ!」とおっしゃったそうです。

母の心の内は、ああ武子が少しは良くなってくれたかしらという気持ちですね。ところが、武子のことは何もおっしゃらない。「あのご婦人がね、気違いが治っちゃったよ!」とおっしゃるの。

「へえー。どういうふうでご守護いただきましたかねえ?」って言ったら、そしたらそこのお家は大百姓。当時、この戦後間もない頃ですから、養豚業をして豚を飼っていた。

まあ一頭の豚が12頭から13頭子豚を産むんですね。2頭あったら26頭でしょう。それでもう二ヶ月くらい育てて売っても、3000円ぐらいになったみたいだからねえ。一生懸命お家の方がそろばん弾いて、「ああ、ええ金儲けや」というふうです。

ところがある日、もう夜になって、その子豚たちが、ギャーギャーギャーギャーもう異様な鳴き声をして止まない。朝になって、家族の方が「一体どうしたんだろう」というふうで見に行った。これはどうもおかしい、様子がおかしいということですね。

そうして、獣医さんを呼んで診てもらったら、まあ言うなれば、人間の気違いと一緒だって言うの。豚がねえ、気違いになっちゃった。全部の子豚が。こんな気違いになった豚は売れませんでしょう。結局つぶして、土に埋めて、捕らぬ狸の皮算用です。

「へえー、豚の気違いねえ…」と言った途端に、座敷牢に入れられていた娘さんが、「あれ?どうして私こんな所にいるの?」っていうわけです。「どうしてこんな所にいるのじゃあない、あんた、こうこうこうだったよ」って言ったら、「へえー…」って治っちゃった。

豚が気違いになったというのを家族が聞いた途端に、本人の気違いがパッと本性になっちゃった。ご守護いただいちゃったの。そういう話を、まあ喜ばせてくれたわけですね。

母は小さい声でね、「それで、武子の方はどうでしょう?」って聞いたら、「うーん…気の毒だけどねえ、武ちゃんはねえ、良くもならないけど、まあ悪くもならんという状態だよ」って言われたそうです。「ああ、そうですかあ」と。

 

こうして、ふた月経ちましたときに、私は会長様に呼ばれました。そうして、「お前さんのおじさん(母の弟)のところから、お母さんにハガキが届いているよ。読んでごらん」とおっしゃるの。

まあ当時は、入り込み者のところへまいりましたものは、全部いちおう奥にまいります。会長様が、表書き・裏書きをご覧になって、皆に配られるという、そういう時代だったんですね。

ハガキですからねえ、会長様もご心配いただいていたと思います。「読んでごらん」と。まあ読まなくっても、会長様のご様子から、ああこれは決して、良いことではないということは分かります。

読みますと、母にですから、『お姉さん、あなたはそれでも人の子の親か』と書いてあった。『これだけの重病人を、助けあげることはできなかろう。あなたが帰るのを待ってね、もう重体だから、家庭療養は無理。病院へ入院させようと思っているけれども、帰らないで困っている。もうこのハガキが着き次第すぐ帰ってこい』という、たっての手紙なの。

「ああ会長様、申し訳ございません…」もう思わずねえ、私は会長様の前へ頭を下げた。

そうしたら、会長様が、「僕をごらん」とおっしゃった。

「僕をごらん。僕だってねえ、今日になるまでには、何回となく、もう関根先生はこの難場はよう通れないだろうと言って、先生方がじーっと眺めていらっしゃる中を、私はねえ、いつも、なあにくそー!こんな因縁に負けてなるもんかとして、神様、関根はね、この中を必ず通らせてもらいますよと言って、笑っていつも僕は、因縁の中を抜けさせてもらったよ。その僕が、お前さんに話をするんだからね、しっかり聞かせてもらうんだよ」とおっしゃった。

「社会でも言うだろう、七転び八起き。蛇だってねえ、はじめから大きな蟒蛇(うわばみ)にはならないよ。小さい蛇が、何度も殻を脱ぎ変えて、大きな蛇になっていくんだよ。お道もそうだよ。七度(ななたび)」とおっしゃいましたねえ、会長様。

「前にも進むことができない、されとはいえ、後ろに下がることもできない。右にも左にも行けない。この五尺の体を、この広い世界の中におくこともできないような難場をね、七度(ななたび)抜けないことには、神様が、人間として、人の上に座らせてくださらないんだよ」とおっしゃった。

「しかしながらね、お前さんたち親子は、ああこんな大変な天理教と思わなかった。こんな大変な天理教ならやめてしまおうと思うなら、今ここでやめてもいいよ」とおっしゃいましたね。

「けれども、親子してこうして一生懸命お道を通らなければ、通るに通れない因縁の家柄の者がここでやめたとしても、また3年、5年経って、通るに通れない日が来て、助けてくださいと言ってこの教会の御門をくぐってきても、その時は助けられないよ。あるいは部下の貧乏な教会の役員になって、一代助からない天理教を、泣き泣き通らなきゃならないけれども、それで良かったら、お前さんたち今ここでやめてもいいよ」とおっしゃいました。やめられませんね。「会長様、本当にご苦労をおかけ致しますけれども、どうかお連れ通りください」とお願いをいたしました。

会長様は、「お前さんたちが通ると思ったらいけないよ。神様がね、先々の話の台、たすけの台として、今通してくださるんだよ。お話の台が無かったら、人さんにおたすけをしても、人は聞いてくれないよ。人が聞かないということは、その人を助けてあげることもできない、また自分たちも助かっていかないんだよ。神様が、後々の話の台、助けの台としてお通しくださる道やから、通れんということはどんな道でも無いよ」とおっしゃってくださった。

「やがての日に、二つ一つの道しか無い」とおっしゃる。先ほど申し上げたように、「嫌だったらやめてもいいよ」とおっしゃられた。そうおっしゃられた。

「二つ一つの道とは、僕の言うことを聞かないで、ここでやめてしまって、先へいって、僕が、万人の人の前で、あの者にはあんなふうにおたすけをしてやったけれど、とうとう僕の言うことを聞かないでこんな可哀そうなことになってしまったと言うて、僕が人さんにお話をさせてもらうか、お前さんが、過去こんな日もございました。けれども、曲がりなりにも会長様の言うことを聞かせていただいて、曲がりなりにも通らせていただいて今日がございますとこう言うて、お前さんが、万人の前に立って助かった話をさせてもらうか、道は、二つ一つの道しか無い。さあどっちを取るんだえ」とおっしゃった。

私は、「先へいって助かって、会長様にこうして助けていただきましたというお話を、万人の前でさせていただく日を楽しみに通らせていただきます」

「そうか、分かればよい。これからね、ひのきしんしているお母さんを呼んで、神殿でもういっぺんしっかり定め直せ」とおっしゃってくださいました。

それから、ひのきしん場へ飛んでまいりまして、「お母さん、今、会長様から、こうこうお言葉を頂いて」「ああそう」そうして、神殿へ親子でまいりまして、母は、「私の、この三月(みつき)のひのきしんの間に、もしも私の誠真実が足りなくって、この子を殺すようなことがあったとしても、私は、三月(みつき)のひのきしん、断じて帰りません」そう定めました。

 

私は、普請の始まりに、今の会長様が入り込み者を呼んで、私どもの心定めは、事情でもなんでもなかった。心のお定めでございました。

このご普請が、10年かかろうと20年かかろうと、断じて自分のことは考えません。自分の家のことは考えません。ご普請一筋に通らせていただきますというのが、当時の我々入り込み者のこのご普請への心定めのふせ込みでございました。

そのとおり、「これからも命のある限り、道を通らせていただきます」と、こうしてお定めをさせていただきました。

 

神様はありましたねえ。

私どもは、本当に、それから10日経った日のことを忘れることはできません。

 

 

(4)以上

 

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