地べたに茣蓙(ゴザ)をしいて
さて、昔々遠い昔のある夜、わたしはある夢を見せていただきました。 それが、朝起きましても、あまりにもはっきりと鮮明に覚えている、そんな不思議な夢でございました。
僕の話を少しさせてもらおう。僕はね、立派な両親があってもその親に育ててもらえなかったばかりか、物心がつく頃には、里親が七人と変わっていたのだよ。それはもう小さい頃には、こんな可哀相な子供が千人に一人あるか、万人に一人あるかといわれるような気の毒な運命の子供であったが、十七歳の頃に胸を患って、医者通いをしておった時に、麹町大教会の初代である久保治三郎会長様におたすけをいただいて、私は薬ビンを溝にたたきつけて、こんなことをしていちゃいけないと思って、医者通いをやめて道を通らせていただくようになった。やがて一代定めをしなければならない事が起こった。私はとてもがんこな眼病をわずらった。信者さんからは、「先生は人を助ける事はお上手ですが、御自分の病気は中々御守護がいただけませんね」といわれた。いわれるまでもなく、私もこのお詫び、あの心定めとさせていただいても一向に御守護の理がいただけなかった。そうしたある日のこと、私はフッと“前生”という事に思いがゆき、「いったい私は、前生はどんな道を通ってきた人間であろう」と思うようになり、調べてゆく中に、先祖の中に、ごく変わった道を通った人物が浮上してきた。三代か四代前の先祖で、三河の生まれの人間で、どうしたことか突然すっかり財産をまとめて、家内や子供を捨てて、当時の江戸へ出てきて、そこでやった商売がいけなかった。高利貸を始めて、贅沢三昧をして通った。そりゃもう講談に出てくるような悪徳高利貸で、この人間からは一銭もとれないと見ると今か今かの病人の寝ている布団をはいで持ってくるというような非道な事をして、自分は妾の五人も六人も持って通って、出直しする時は両眼が見えなくなって出直したという人間が先祖におったのだよ。僕は神様に申し上げた。神様、この先祖が私の前生でございましょうか。さすれば、人さんと同じように御飯時に茶碗とはしを持って通れるはずがない。いずれ地べたに座らなきゃならない因縁であったら、これから関根は人さんに助かっていただくために地べたにゴザを敷かせていただいて、一代通らせていただきます。一代で足りなかったら、二代。二代でもしもお許しがいただけなかったら三代。三代も地べたにゴザを敷かせていただいて通らせていただきます。それでお許しがいただけましたならば、この眼の御守護をいただきたいと、真剣に神様にお願いをさせていただいた。そうして三日三夜のお願いをさせていただいて、あざやかすっきりの眼の御守護を頂戴する事ができたのだよ。私は決して自分がよくなりたい、助かりたいと思って道を始めたわけではない。しかしながら、一代はおろか二代、二代で駄目なら三代と定めて通らせていただいたが、一代も経たない中にこんなにけっこうに神様がしてくださった。しかしながら、形の上では、高い立場に座らせていただいているけれども、心は今もまったく変わらないよ。人さんに助かってもらいたい、喜んでいただきたい、ついては一代地べたにゴザを敷かせていただいて通らせていただきますという心は変わっていない。その変わらない心を神様は誠真実としてお受け取りくださって、今日の愛町の理の栄えをお見せいただいているのだよ。時として私は思う、また昔のように形の上でも地べたにゴザを敷いて通りたい。けれども、今愛町には全国に数万の信者さんがおられる。僕が形の上で地べたに座ったら、皆さんはもっともっと低い所に座らなければ、助かってゆかない。それじゃ、皆さんに申し訳ないから、私は今、形の上では地べたにゴザを敷かないけれども、心は昔と一寸も変わっていないよ」と、会長様は、ご自分の前生から、千人・万人にないような御苦労の道を、お道の御苦労に替えられて通られたお話を私に聞かせてくださいました。
さて、私の夢のお話の続きでございますが、会長様は「わかったかい、わかってくれたかい」として、私のために長い時間をかけてお話をしてくださいました。 こうして私は、夢のおさとしの中から、自分の前生を会長様に教えていただきまして、自らの通るべき道が定まったのでございます。
年を重ねて、私もお教会に入り込みをさせていただいて六十年がまいりました。 誠に「百の因縁」は、「一つのおたすけ」によって消していただけるものでございまして、自分の身上をもって通れない運命の者、当然かけていただける者から情のもらえない運命の者が、一つ一つたすかった理をお見せいただき、神様、会長様のお徳をいただいて、今現在こうして通らせていただいております。 このほど、
私自身、本来ならば身上をお返ししなければならない理のありました事を、長年来の親しい友の出直しからお見せいただきました。 私はこれからも命の終わる迄、夢のおさとしからさせていただいた一代のお定めを命にかえて守って通らせていただくとともに、初代会長様が教えてくださいました万分の一の信仰を通り、まがりなりにも御恩返しの道を通せていただく覚悟でございます。
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